台南榕樹日記

ficusmicrocarpaは榕樹(ガジュマル)の学術名。台湾の古都、台南にある榕樹がシンボルの大学での語学留学の日々の記録。

12月31日 安靜的年終

今年のお正月、台南で年を越すことになるなんて予想もできなかった。

去年の5月に岩手にUターンして、何か勉強になればと、時給850円で隣町にできたばかりの町づくりの団体で仕事を始めたものの、勉強にならないどころか、人を雇用しているという自覚もない団体で。これからどうやって生きていったらよいか、お正月じゅう深く悩んでいた。

いくつかの縁があって、今こうして成功大學の寮の11階の部屋にいて、夜景を眺めながら遠くに聞こえる爆竹の音を聞いていると、小さな決断はしたものの、もともとめざしてたんだっけ?と感じるほど、違和感がない。それほど、台南という街が水に合っているようなのだ。

日本では無職という身分なのだけど、去年薄給だったおかげで、税金や保険料が安くすんでいる。留学前抱いていた帰ったらどうするのかという不安も今はない。中国語をもっと話せるようになりたい。台南という街やそこに暮らす人のことをもっと知りたい。今はそんな気持ちだ。

年末年始は4連休。すっかり慣れたT-Bikeで、気になっていた場所をたくさん巡ることができて満足だ。慌ただしい旅とは違うから、疲れたら、また次にしよう、と思えるのがうれしい。台南の年末は、廟の近くの路地に宴会料理の宴席が並んでいる以外は、いつもの週末とあまり変わりがない。

昨日おとといは、林檎ニ手書店、聚珍台灣書店、紅豆湯の慕紅豆、粽の老舗再發號、文学館とリニューアルしたばかりの市立美術館、路地裏の一軒家カフェa Room。

今日は、城南書肆(閉店していた。ショック!)、鍋焼意麺の人気店小豆豆、艸祭Book inn、林百貨。それから、台南で最初に友達になったHさんに教えてもらった、南十三珈琲。

街を歩いていると、小さな発見がたくさんある。地図上で名前を知っているだけだった路地に足を踏み入れると、頭の中の私だけの地図がアップデートされていく。短くてもお店の人と言葉をかわすと、街の表情が見えてくる。

南十三珈琲は路地の奥にある、古い住宅を改装した珈琲店。メニューは珈琲のみ。大きなテーブルのカウンターで、中年のマスターがサイフォンで入れた自家焙煎珈琲を、マスターとの会話や音楽を楽しみながら味わう店。覚えたての中国語でも臆せず話すことができた。

台南の若者がやっているカフェでよく見かけて気になっていたCD「幸福在哪裡(幸福はどこに?」があったので、かけてもらう。台南出身の歌手が歌っているから、応援しているのかと思っていたら、メッセージに共感しているからのようだ。アコースティックギター1本で歌う、プロテストソングのような閩南語の歌詞は意味が分からないけど、ジャケットがメッセージを伝えている。「日本一樣(日本も同じ)」と言うと、マスターは頷いてくれた。

連休最終日の明日は初めてのちょっと遠出。路線バスに60分ゆられて、郊外の歴史博物館に伊能嘉矩展を観に行くのだ。

国に帰る学生が多いせいか、年末の太子寮は静かだ。ひとり旅の夜とも違うこの感じ。暮らしていると、旅の高揚感の代わりに、こんな静かな孤独が味わえる。

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街でよく見かけた「沒有人是局外人」のステッカーもあった。政治的なメッセージだろうなと思っていたら、やはり原住民の権利を守ろうというものらしい。