台南榕樹日記

ficusmicrocarpaは榕樹(ガジュマル)の学術名。台湾の古都、台南にある榕樹がシンボルの大学での語学留学の日々の記録。

2月15日 高雄裡有日本

5限目の太極の授業をサボって、火車に乗って高雄に行った。<三餘書店>で行われるブックコーディネーターの内沼晋太郎さんのトークを聴くためだ。

トークまではかなり時間があったので、この前気になったのに行けなかった場所をあちこち巡ることができた。

まずは<小堤珈琲>。日本語の話せるお母さんが営んでいる喫茶店とあって、台湾好きの間では有名な店だ。雰囲気は東京の下町にある昭和レトロな喫茶店そのもの。ちょうど常連さんたちが集まっていて、私をあたたかく迎えてくれた。元は日本人の経営で、この地で40年営業しているそうだ。常連さん同士は台語を話していた。1杯100元の珈琲も美味しくて、こんな喫茶店近所にあったら通うのになあ。

鹽埕埔站近くでたまたま見かけて気になっていた<人生書局>も行ってみた。名前もなかなか渋いが、外観が超カオス。風変わりな本好きがやっているのではないかと、恐る恐るたずねると、奥から90才は優に超えたお爺さんが現れた。私が日本人と分かると、達者な日本語でいろいろなことを話してくれた。

お爺さんは<人生書局>の3代目。現在は4代目の息子さんが営んでいるようだ。代々お坊さんの家系で、出版も手がけてきたそうだ。仏教関係の本が多いのはそのためだ。お爺さんは特攻隊として戦地に行ったこともあると、自叙伝らしい自社から出版した本のページをめくりながら教えてくれた。当時の生活は、朝から晩まで勉強と訓練の厳しい毎日だったそうだ。今もそらで歌える軍歌を歌ってくれた。複雑な気持ちになったけど、日本に対して一点の曇りもなく好意的に感じられた。家が貧しかったというお爺さんは、優秀だったので、小学校の日本人の校長先生の計らいで奨学金をもらって大学まで卒業できたそうだ。日本にいる同級生たちと今も交流があって、岡山を訪ねたときの写真も見せてくれた。話を聞きながら、お爺さんがたいへんな時代を強く生き抜いてこられたのは、仏教という拠り所があったからと感じずにはいられなかった。帰りに昔の<人生書局>が写った絵葉書をもらった。

鹽埕埔にある大きな市場を歩いていても、元気なお年寄りが街に活気をあたえている印象をうけた。

サブカル好きが集まる<灰珈琲>、鴨肉飯の名店<七賢鴨肉飯>も行くことができた。

内沼さんのトークは19時から。テーマは「未来書店入門」。盛岡で働いていたこともあるスタッフのNちゃんが通訳を担当した。20人ぐらい集まっていただろうか。内沼さんの駆け出しの頃から現在までの本をめぐる仕事をスライドを見せながら紹介してくれた。

20年近く前の「文庫本葉書」の頃の内沼さんを直接知っている。まだ本だけは食えず、肉体労働のバイドもしていた頃だろう。組織に属することもなく、「本が好き」という一念でいろいろな仕事をしながら、少しずつ仕事の幅を広げ、今では書店を経営したり、出版を手がけたり、八戸市の図書館の運営にまでかかわるようになって、これはかなりスゴいことなんじゃないか。しかも、どの仕事も高いクオリティを保っているように見える。仕事への姿勢や取り組み方などでも学ぶことが多そうだ。

参加者の方たちの関心も高く、質問も多く出た。内沼さんいわく、台湾も日本と同じく本をめぐる状況は厳しいけど、台湾は少し進んでいる。そこから学ぶことは多い、と。

日本に住んでいたのは1年だけだというのに、Nちゃんの通訳は上手かった。私もこんなイベントの通訳ができるぐらいになりたい。いったい何年かかるのかはともかく、具体的なイメージができた。

この前に来たときはネガティブな印象をもった高雄だったけど、ゆっくり歩いて、街の人と話をして、日本の面影を残す港町らしい活気のある高雄の街や人が好きになった。

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超カオスな店先と坊主頭の後ろ姿がお爺さん。