台南榕樹日記

ficusmicrocarpaは榕樹(ガジュマル)の学術名。台湾の古都、台南にある榕樹がシンボルの大学での語学留学の日々の記録。

2月28日 冬季班結束了

昨日で期末テストも終わり、B班(初級コース)はすべて終了。終了証明書をもらった。

先生の言っていることがほとんど分からない。から始まって、これでもか、これでもかと追ってくる宿題に追われながらも、なんとかペースをつかみ、もっと台湾人と話す機会をつくらなくちゃと、いろいろなところにちょこちょこ顔を出すうちに、あっという間の3ヶ月。中国語を話すことに抵抗がなくなり、今ようやくスタートラインに立てた。そんな感じだ。

語学のクラスは1日も休まなかったし、宿題も1度も遅れなかった。マジメだけが取り柄ってなんだかイケてないけど、もともと語学のセンスがない上に、もう若くないのを十分に自覚しているから、そこだけは守った。

受験勉強だってロクにしてない私は、こんなに勉強した3ヶ月は今までになかった。だから、自分の限界もよく分かった。宿題をしているとき、何十年会っていない高校や大学の優秀な同級生たちのことを思い出した。彼女たちは、これをおもしろいと思ってやっていたんだな、と。その頃は、勉強に興味がなかったので、勉強ばかりしている同級生をバカにすらしていた。今は違う。上級コースの学生を本気でスゴいと思っている。

ある程度日常会話を話せるようになるには半年かかると言われている。あと3ヶ月でそうなれるか心もとないけど、話せるようにならなければ意味がないので、C班に進むことにしている。高いモチベーションさえあれば、もうちょっと努力できそう。C班が始まるまでの間やるべきは、モチベーションを上げて維持するための、目標の設定と勉強方法を考えることだ。

昨日、17時頃寮に戻ると、もう宿題にもテストにも追われることがないから、久しぶりの解放感を感じた。夕方以降は用事がないとなかなか行く気にならない駅の西側に出かけることにした。

まずはリニューアルオープンしたばかりの<城南舊肆>。その後、夕暮れの街を旅行者みたいにぶらぶら歩いた。お腹が空いてきたので、<石精臼牛肉湯>で牛肉湯を。名店というだけあって、肉が柔らかくて美味しかった。そして、ずっと気になっていた<大乱歩>へ。店内には細野晴臣が流れ、本棚には幻想文学やアングラ系の本がズラリ。中国語版『家畜人ヤプー』もあった。カウンターに座って一番搾りを缶で飲みながら、水木しげるの『世界の妖怪大百科』を読んでいたら、台南にいることを忘れてしまいそうだった。マスターが私が日本人と分かると、「よく見つけたね」と、歓迎してくれた。1人でカウンターに座ってビールを飲みながらぼんやり時間を過ごせる店を台南ではほかに知らない。本の趣味が合ってるわけじゃないけど、こんな店の常連になるのもいいな。

最後に、<マルヤン檳榔店>へ。腰かけて、マルヤンさんと妹さんと3人で世間話。サバヒーのスープまでご馳走になった。サバヒーの油がトロっとして美味しかった。マルヤンさんが「さっきは何で来たの」の中国語での質問に、「さっき」が聞き取れず、日本からだと思って「飛行機で」と答えた私。こんな日常会話は学校では教えてくれない。こうやって街の人と話しながら覚えていかなくては。佐佐木千繪さんの『在台灣的京都 吃喝玩樂』が売っていたので購入。日本の友達が日本語版をもっていたのを見て、住んでいる私も「ここ行かなきゃ」というディープな情報が満載で、ちょうど買おうと思っていたところだった。次の3ヶ月はこの本が相棒だ。

f:id:ficusmicrocarpa:20190228113041j:plain

成功大学に通う日本人御用達の<老友小吃店>も載っている。台南ガイドもここまでローカルに。

 

 

 

2月26日 考試非常難

昨日の發音につづいて、今日は小グループのテスト。中間テストが思ったほど難しくなかったので高を括っていたけど、付け焼き刃が通用しない、難問ばかりだった。2時間いっぱいいっぱい使って、なんとか答案用紙を埋めた。

成功大学は「台湾の京大」といわれる台湾南部の最高学府。語学学校には母国の大学を卒業したあと、成功大学の大学院に進むため、まず語学学校に通って中国語を勉強している学生もいる。そういった学生に必要なレベルもカバーする試験になっているのだと思う。あのテストで高得点を取れるのは、ぜったい東大レベルの秀才だけだ。

残るは語法(文法)の試験と報告と言われるパワーポイントを使ったプレゼンテーション。「就」と「才」の用法がまだあやふやだし、「了」だってマスターしたとは言いがたいけど、語法はもう開き直るしかない。報告はせめて發音で点数を落とさないように、準備準備。

2月25日 期末試験開始了

小グループの必修クラスは今日が最後。老師はいつもどおり明るく快活だったけど、心なしか名残推しく感じているように思えた。私自身がそう感じているからだろう。休憩時間、老師が教室を出ると、老師に贈るプレゼントに添えるカードをみんなに回してメッセージを書いてもらった。プレゼント代は1人70元。タイのSちゃんは、もともと自分が買いに行かなければならなかったのを私が買ってきたからか、Sちゃんが差し出した100元札のおつりを渡そうとしても、決して受け取らなかった。

午後は發音の試験。聴き取りのほか、ひとつテーマを選び、みんなの前で1分間のスピーチをする課題があった。私は「學中文的經驗(中国語学習の経験)」を選んだ。原稿を読んではいけなかったので、すごく緊張した。中国語は、日本で半年間独学で学んだだけだったので、入学したばりの頃、先生の言っていることがほとんど分からなかった、と自分の経験をありのまま話した。「我非常可怕!(超焦った!)」のところで、ドッと受けた。パフォーマンスだけは満点だろう。みんながあたたかく耳を傾けて聴いてくれているのが伝わってきた。

試験を終えて帰国する学生も多いので、「いつ帰るの?」「寂しくなるわ」なんていう会話が学校のあちこちで交わされていた。私も明日帰国するHさんに別れの挨拶をした。

朝方、肌寒かったものの、お昼頃にはいつもの初夏の陽気。こんな陽気でも、卒業の切なさって感じるもんなんだな。

 

 

2月23日 考試快要來了

今日は土曜日なのに、来週の2月28日が台湾の祝日なので、その補講として授業があった。期末試験が来週からはじまり、27日水曜日には冬期が終わる。あっと言う間の3ヶ月だった。

小班のクラスの休憩時間、老師が教室を出たあと、スワジランドのJちゃんが、「みんなで先生にプレゼントをしない?」と提案してきた。台湾人の老師に台湾で買ったものを贈って喜んでくれるかなと思ったけど、スワジランドの19才の女の子のせっかくの提案だ。「先生は猫が好き」と言うと、タイのSちゃんが「じゃあ、マグカップがいいんじゃない」と提案してきた。老師はスターバックスのかなり使いこんだ大きなカップに入れたコーヒーを授業中も飲んでいる。猫のマグカップを贈るということになり、面倒見のいいSちゃんが買うことになった。が、期末試験がもう始まっているし、休日は明日の日曜日しかない。「私も街に出たときいいのを見つけたら、写真撮ってLINEに送るね」と言っておいた。ついつい自分の母国語か英語で話してしまっていた私たちだったけど、3ヶ月経ってこれぐらいの会話は中国語でするようになった。

寮に帰って少し勉強したあと、気分転換もかねて、最近毎日のように通っている後甲黄昏市場に夕飯のおかずを買いにT-Bikeで出かけることにした。黄昏市場の近くにあるショッピングモール〈夢時代〉には〈誠品書店〉や〈Kath Kidson〉があることをふと思い出して、よってみることにした。〈Kath Kidson〉に猫のリアルな顔が大きく入った手頃な値段のカップを見つけたので、写真を撮ってLINEに送ると、「猫あんまり可愛くないけど、カッコいい」とSちゃんからさっそく返事。オランダのIクンも同意してくれた。テニスをやっていて、FILAのトレパン姿で授業をすることもある老師だったけど、まだ20代の若い女性。イギリスのブランド物なら喜んでくれるはず。寮の隣の〈九乗九〉で猫のイラストが入ったカードも買い、「みんな中国語で老師にメッセージ書いてね」とLINEにメッセージを送った。

「宿題が多すぎる」とボヤき、老師の質問にはいつも単語で答えて、「句子!(文章で!)」と注意される、出来の悪い私たちだったけど、老師はどんな反応をしてくれるかな。

 

 

 

 

2月15日 高雄裡有日本

5限目の太極の授業をサボって、火車に乗って高雄に行った。<三餘書店>で行われるブックコーディネーターの内沼晋太郎さんのトークを聴くためだ。

トークまではかなり時間があったので、この前気になったのに行けなかった場所をあちこち巡ることができた。

まずは<小堤珈琲>。日本語の話せるお母さんが営んでいる喫茶店とあって、台湾好きの間では有名な店だ。雰囲気は東京の下町にある昭和レトロな喫茶店そのもの。ちょうど常連さんたちが集まっていて、私をあたたかく迎えてくれた。元は日本人の経営で、この地で40年営業しているそうだ。常連さん同士は台語を話していた。1杯100元の珈琲も美味しくて、こんな喫茶店近所にあったら通うのになあ。

鹽埕埔站近くでたまたま見かけて気になっていた<人生書局>も行ってみた。名前もなかなか渋いが、外観が超カオス。風変わりな本好きがやっているのではないかと、恐る恐るたずねると、奥から90才は優に超えたお爺さんが現れた。私が日本人と分かると、達者な日本語でいろいろなことを話してくれた。

お爺さんは<人生書局>の3代目。現在は4代目の息子さんが営んでいるようだ。代々お坊さんの家系で、出版も手がけてきたそうだ。仏教関係の本が多いのはそのためだ。お爺さんは特攻隊として戦地に行ったこともあると、自叙伝らしい自社から出版した本のページをめくりながら教えてくれた。当時の生活は、朝から晩まで勉強と訓練の厳しい毎日だったそうだ。今もそらで歌える軍歌を歌ってくれた。複雑な気持ちになったけど、日本に対して一点の曇りもなく好意的に感じられた。家が貧しかったというお爺さんは、優秀だったので、小学校の日本人の校長先生の計らいで奨学金をもらって大学まで卒業できたそうだ。日本にいる同級生たちと今も交流があって、岡山を訪ねたときの写真も見せてくれた。話を聞きながら、お爺さんがたいへんな時代を強く生き抜いてこられたのは、仏教という拠り所があったからと感じずにはいられなかった。帰りに昔の<人生書局>が写った絵葉書をもらった。

鹽埕埔にある大きな市場を歩いていても、元気なお年寄りが街に活気をあたえている印象をうけた。

サブカル好きが集まる<灰珈琲>、鴨肉飯の名店<七賢鴨肉飯>も行くことができた。

内沼さんのトークは19時から。テーマは「未来書店入門」。盛岡で働いていたこともあるスタッフのNちゃんが通訳を担当した。20人ぐらい集まっていただろうか。内沼さんの駆け出しの頃から現在までの本をめぐる仕事をスライドを見せながら紹介してくれた。

20年近く前の「文庫本葉書」の頃の内沼さんを直接知っている。まだ本だけは食えず、肉体労働のバイドもしていた頃だろう。組織に属することもなく、「本が好き」という一念でいろいろな仕事をしながら、少しずつ仕事の幅を広げ、今では書店を経営したり、出版を手がけたり、八戸市の図書館の運営にまでかかわるようになって、これはかなりスゴいことなんじゃないか。しかも、どの仕事も高いクオリティを保っているように見える。仕事への姿勢や取り組み方などでも学ぶことが多そうだ。

参加者の方たちの関心も高く、質問も多く出た。内沼さんいわく、台湾も日本と同じく本をめぐる状況は厳しいけど、台湾は少し進んでいる。そこから学ぶことは多い、と。

日本に住んでいたのは1年だけだというのに、Nちゃんの通訳は上手かった。私もこんなイベントの通訳ができるぐらいになりたい。いったい何年かかるのかはともかく、具体的なイメージができた。

この前に来たときはネガティブな印象をもった高雄だったけど、ゆっくり歩いて、街の人と話をして、日本の面影を残す港町らしい活気のある高雄の街や人が好きになった。

f:id:ficusmicrocarpa:20190216214340j:plain

超カオスな店先と坊主頭の後ろ姿がお爺さん。

 

 

 

2月11日 上課開始了

春節の休みが終わって、今日から授業が始まる。

「この春節休みが勝負を決める」なんて受験生みたいなことを言っていたが、やはり、というか、たいして勉強はできず、ダラダラしてしまった。それでも、宿題はだいたいできたし、教科書の復習だってできたから、私としては上出来だろう。

春節の間、大きなイベントはなかったものの、台南郊外の麻豆で開催中の「麻豆糖業大地藝術祭」に行って、遠野で出会った杉原信幸さんの作品を観ることができたし、市内にある台湾好きに有名なゲストハウス<はむ家>さんの飲み会に参加して、長期滞在している日本人や地元の台湾人大学生と交流することもできた。宿舎のパーティに参加もしたし、美術館や映画だって楽しんだ。初めてサバヒーも食べたし、チェックしていた阿龍意麺も食べた。台南の春節の街の雰囲気も味わうことができた。十分じゃないか。

今日からまた授業が始まる。今週末も来週末も日本から友達が遊びに来る。再来週は期末テスト。そして、台東旅行のあとは、一時帰国。

もう半月しかない。ダラダラしてるヒマはないので、気を引き締めていかないと!

f:id:ficusmicrocarpa:20190211090311j:plain

麻豆で観たいちばん好きな展示。麻豆はかつて製糖産業で栄えた街。藝術祭にはその歴史が色濃く反映されたいた。

 

2月5日 波希米亞狂想曲

台湾は今日がお正月。日中は宿題をしたり、掃除をしたり、ぼんやり過ごす。夜は、全美戱院に「波希米亞狂想曲(ボヘミアンラプソディ)」を観に行った。

映画の前に街をぶらぶら。台湾人はお正月は家族で過ごすと聞いていたので、街は静かなのかと思っていたら、チェーン店は営業しているし、若者たちは街に繰り出しているし、いつもとたいして変わらなかった。今年は初詣をしていなかったので、廟で今年1年の無病息災を祈願した

ボヘミアンラプソディ」は遅い時間なのに、100人は入っていただろうか。英語の映画を中国語の字幕で観るなんて初めて。日本で一度観ていたから、ストーリーはだいたい分かっていたけど、笑い声が上がったシーンも、何のことか分からず、ちょっぴりアウェイ感。フレディはなぜ自分がヴァイセクシャルと分かったあと、短髪にヒゲに変えたのだろうか。自分をカリカチュアするため?詳しい人、誰か教えてほしい。元妻のメアリーにすごく共感した。フレディの才能を尊敬して、彼を理解しているけど、やっぱり普通の人というところに。

夜の全美戱院も悪くない。夏の夜にビールを飲みながら、台湾映画を観たら最高だろうな。

f:id:ficusmicrocarpa:20190206172753j:plain

路地のランタンはインスタスポット。